雑言 NO.1355

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まだケータイ電話がない時代のこと。働いていた店には電話が嫌いなスタッフがいました。なぜ嫌いかと訊けば「いつも突然架かってくるから」。前触れもなくいきなり呼び出し音が鳴って、それまでの作業や思考や会話を途切れさせてしまうのが嫌なのだ、と。たしかに電話は距離や空間や関係を無視して、いきなり架かってくる。それが当たり前だと順応していた私には、意外な反応に思えました。

最近になってケータイに電話をかけてくる人は、会話が始まる前に「いまいいですか?」と訊いてくる人が増えました。デスクの上にある固定電話と違って、どんな場面でも使えるケータイだから、相手の状況を慮ることがエチケットになりつつあるようです。でも、ケータイで会話すること自体が減り、固定電話の迷惑なセールスが増え、テレビと同じように電話も昭和のツールになりつつあります。

今はフォーマルなやり取りはメールが主ですが、SNSで繋がっている相手とはチャットで意思の疎通をすることが主になりました。早いし文字で会話が残るし使いやすい。これを基準にするとメールなんかずいぶん古い手段に思えてくる。会話をすることはその時間を相手と合わせなくてはならないけど、メールもチャットもお互いの時間を縛らないのでずいぶん楽になった。時々返信を忘れるけど。

先日はある会社と取引を始めようと思ってメールを送りましたが、返信があったのは2日後でした。すぐに詳しい内容を返信で問い合わせたのですが、返信があったのはなんと10日後。相手にとっては取るに足らない小さな店なのでしょうけど、この対応の遅さはこれから信用を基にした取引をする相手として再考せざるを得ず、こちらからお断りさせていただきました。今どきちょっとびっくり。

私たち自営業の仕事の根幹は、意志の決定にあります。目の前に現れた事案について、すぐに決定を下すことが仕事のようなものです。それができるのは、多数の人間が意志の決定に携わる組織の体をなしていないから。つまり意志を決める基準が単細胞だからすぐに反応できるのですが、組織になっていろんな細胞が関わるようになっても、意志が速やかに決定できないともう生き残っていけない。

翻って自分たちの姿を鏡に映してみると、実に無理な形で仕事をしていることが分かります。八百屋の仕事でも手一杯のところに、2階に新たな得体のしれない店を作って動かそうとしている。スタッフはアラ還の店主とカミさん。意志の決定は早いけど、仕事が完全にブラックボックス化している。それを店主はタコ壷と揶揄するけれど、店がタコ壷である限り2階をうまく動かすことはできない。

2階を作るまでのスピード感はタコ壷がうまく機能した結果です。今年は次のフェーズとして店のタコ壷化、つまり仕事の属人化を解くことに取り掛かります。と言うけれど、これ、大変なことなんです。自分の中にある仕事関係のファイあああああルを全部テーブルに広げて、第三者にわかるように解説して取説を書く。やらなくても仕事は進むからつい後回しにしがちだけど、今ある最大の障壁かもしれない。

思えば私たちの世代は、電話がない時代からチャットまで意思の疎通方法の変化を経験してきました。いろんな変化を経験したおかげで、いかに変化への対応が生き残ることに大事か、ということを身をもって学んできました。だから、自分を解体して腑分けして見せることだってなんてことはないと大見えを切りたいんですけど、どうも今回は脂汗をかくことになりそうです。とりあえずやってみます。